忘れられない握手
投稿:(ニックネーム/桜さん)
「ひとつの物語」プロジェクト。今回は、29年にわたってこの仕事を続けてこられた司会者の方からのお便りです。
ブライダルアナウンサーとして働き、29年の月日が経ちました。私がこの仕事を続けているのは、ある花嫁のお父様との、忘れられない“握手”があるからです。
余命1か月と告げられて
余命1か月のお父さんに花嫁姿を見せたいと、結婚式を挙げることを急遽決めたカップルのお話です。本当は、あと2、3年したら式を挙げようとしていたお二人でした。けれど新婦のお父様が癌であることがわかり、余命1か月と宣告され——とにかく花嫁姿を見せてあげたい。その一心で迎えた当日でした。
準備の期間は、ほとんどありませんでした。それでも、やらないという選択肢は誰の頭にもありませんでした。最悪の場合、結婚式ではなくお葬式になってしまう。絶対結婚式をするんだと、みんなが心に強い気持ちを持って迎えた結婚式当日。無事、結婚式、披露宴が結びました。
お見送りの、その手
お見送りの時、車椅子に乗られた花嫁の父は、誰が見ても間もなく亡くなるであろうとわかる姿でした。そんなお父様が、私に手を差し出してくださり、
『間に合って良かった。ありがとう』
そう涙を流して、握手して下さいました。その時のお父様の、力の無いか弱い握手。しかし、お父様が力の限り一生懸命握りしめて下さったとわかる握手。温かい手のぬくもりは、一生忘れられない握手となりました。
数日後
それから数日後、お父様はお亡くなりになられたそうです。最期には、花嫁姿が見れて本当に良かった——との言葉を遺して下さったとお聞きしました。
この仕事のやりがい
ハッピーな話ではないかもしれません。けれどこの時、私は結婚式に関わる仕事の大きなやりがいを感じました。こんな自分でも誰かのためになれたこと。一人の方の人生の終わりに、喜んでいただけたこと。
以来、結婚式の思い出と共に記憶に残していただける司会者でいたいと、自身の目標も出来ました。誰かのために一生懸命になり、その誰かが喜んでいる姿を見て、自分の喜びにする。結婚式は、まさにそんな仕事だと思います。
30年目を前に
間もなく30年を迎える私のブライダルアナウンサーとしての時間は、あの時のお父様の、あの握手が支えて下さっています。こんなにやりがいを感じる仕事は他には無いと、自分の仕事に誇りを持っています。
“生まれ変わってもブライダルの仕事がしたい!!” そう思わせてくれた、一生忘れてはならない、忘れることが出来ない、花嫁の父との握手です。
「ひとつの物語」プロジェクトについて
結婚式ひとつひとつに、素敵な物語があります。プランナー、ヘアメイク、カメラマン、フローリスト、ドレスコーディネイター、司会、音響、サービス、料理人——それぞれの立場から見た結婚式のエピソードをお寄せください。
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